
バウルの唄 サカモトサトル
太鼓の音が定期的なリズムを刻みだした。
楽器群の中で唯一音程を持つハルモニアと呼ばれるオルガンが、旋律らしきものを奏ではじめた。
長老は声を出し始めようとしている。
どうやら始まってしまったようだ。
私はイヤホンで音をモニターしながらマイクのセッティング位置の決定を早めるべく思考を巡らせた。
ボーカルが中央に定位するように、ステレオ効果を高めるため、ほんのわずかに基音の周波数の異なる二つの金
属楽器がマイクと左右等距離になるように(注1)。
太鼓が左に偏ってしまうのは仕方ないか。弦楽器の音が弱いから近づけたいが、金属楽器のステレオ効果とどち
らを優先させるかだ。
金属音があまり大きく入力されるとまずいかもしれない。
MDには内臓のリミッターを経由して録音されるはずだから音割れの心配はないが、マイクがコンデンサ型だか
らあまり高周波で大音量の入力があるとそっちが耐えられなくて壊れてしまうからだ。
ティッシュでくるんでマスキングしておこうか。
私は床とマイクの間に折りたたんだハンカチを挟みながら考えた。
こうすると床面の振動と高周波の音をハンカチが吸収してくれるはずだ。
そういえばハンカチなんか使ったのは今回の旅で初めてだということに気付いて、ちょっとおかしかった。
私はアシュラムで行われる、私以外が全員演奏者という贅沢な演奏会を少しでも高い音質で録音すべく、持てる
知識を総動員した。
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